大冒険

そうこうしているうちに、母から「そっちに様子を見に行きたいが、調子はどう?」との連絡がありました。
いきなりどうしたんだろう、と思って聞くとかねてから持病があり調子の悪かった父が入院したので、時間が取れるから様子を見に行きたい、ということのようです。
父が入院したというのが僕にとっては大問題です。「別にこっちは変わりないから、お見舞いに行くよ」ということで妻と相談し、学校や保育園に通う子どもたちの面倒をみるため妻は家で待機してもらい、僕一人で実家に帰ることにしました。
東海地方にある僕の実家は車で行っていたのですが、車の運転に復帰したとは言え復帰して間もなくしかも高速の運転に自信がなかったので新幹線で行くことにします。
産業医の面談で単身赴任先に一人で行けた自信もあり、ましてや勝手知ったる実家への旅行です。問題ないでしょう。
新幹線の切符を買います。手帳提示で乗車券が半額になるので、特急券と合わせておよそ2/3位の金額で行けます。特急券も半額だったら嬉しいのですが・・・。
キヨスクでお茶を買い、新幹線に乗り込みます。昔はよくビールやハイボールを買って乗っていたのですが禁酒の身、そういうわけにも行きません。
席は乗降口最寄りの進行方向に向かって右側の通路側、”1B”席を取っておきました。窮屈な通路の移動も少なく、人をまたぐ動作もなく、装具をつけている左足も窮屈にならないよう考えた結果です。
窓際ではありませんが、窓から見える景色を眺める余裕もあります。近々で乗ったのは急性期病院から回復期病院に移動した半年前です。その時は腰が痛くて外を見る余裕なんて全くありませんでした。
名古屋で乗り換える必要があります。病気になる前は減速し始めてから支度しても十分間に合ったのですが、余裕を持って「三河安城駅を時刻通り通過しました」のアナウンスで支度を始めます。
名古屋にはお昼時に着いたので、”栄で飯でも食うかな”と学生時代から慣れ親しんだ繁華街へ行ってみようと考えました。
名古屋は地下鉄で移動するのが便利なのですが、上下移動の少ないバスが良いと考えバス停に移動します。
僕の住んでいる関東地方の自治体発行の手帳でも、名古屋のバスでは半額で乗ることが出来ました。Suicaも使えますので便利です。
よく知っているうどん屋さんで昼食を取り、少しブラブラと散歩してから名古屋駅に戻ります。
途中で小銭を落とした時拾ってもらって”名古屋の人も親切だなぁ”と思いましたが地域による違いなどありませんよね。
名古屋からは在来線に乗って実家最寄りの駅に行きました。駅では母が車で迎えに来てくれていました。
母と会うのは回復期病院にお見舞いに来てくれた時以来です。「随分良くなって」と嬉しそうです。
父のことも気がかりでしたが、もう一つ気がかりなことがありました。愛犬の様子です。
妻の実家に向かう途中僕の実家に寄って愛犬を預かってもらってすぐ僕が倒れて、半年ほど預けっぱなしになっていました。
その間母から「フィラリアの薬をもらいに獣医に行ったんだけど、心臓が良くないって言われた」と連絡があったので非常に気がかりでしたが、実家で待っていた愛犬は僕の顔を覚えていてくれて嬉しそうに一生懸命手を舐めています。
「心臓が悪い」と言われていましたが、預ける前と殆ど変わらないように見えます。元気そうで何よりでした。母と一緒に愛犬の散歩に出かけてみました。愛犬の足取りもしっかりしています。オヤツをあげると前と変わらずジャンプして食べます。良かった。
まあ、負担をかけないようにしなければなりません。僕も以前のように長距離の散歩は大変です。
倒れて以来、愛犬はずっと実家で預かってもらうかな?と考えていましたが、子どもたちも「犬に会いたい」と言っていますし、母にずっと面倒を見てもらうのも大変です。何よりうちの仔です。この時連れて帰ることを決心しました。
ただし今回は無理なので、お正月休み明けの次の3連休に車で来て連れて帰ろう、と計画を練り始めました。
翌日、父が入院している病院へ母と一緒に行きました。僕は杖をついて歩いているので、お見舞いに来たのか病院に見てもらいに来たのかわかりません。母は「普通の人と同じくらいの速さで歩けるようになったじゃないの?」と言いますが、妻や子どもたちと歩くと置いて行かれます。
父の病室に着きました。父は座って好きなテレビの大食い番組を見ています。血色も良さそうです。倒れて以来父と会っていなかったので、父は僕の顔と立って歩いている姿を見て安心したようです。
しかし、「足の金具はいつ取れるんだ?」と父が聞きます。「たぶん一生取れないんじゃないかな?」と言うと父は悲しそうな顔をします。情けない姿を父に見せるのは大変心苦しく思いました。親不孝者です。
「犬は今度連れて帰るから」と言うと「置いていけ」と言います。つい先日まで実家では犬を飼っており、死んだ直後に入れ替わりに僕の愛犬が来た格好ですので父もかわいがってくれていたようです。
僕の愛犬と散歩するのも父は楽しみだったようで、連れて帰るのも心苦しいのですが、決めたからには仕方ありません。犬を買ってあげようか?と言うと「いらない」と言われました。難しいところです。
実家に戻ると家の改修業者さんが来ていました。父は要介護認定を受けるので退院前に介護保険で手すりをつけておくのだそうです。母は僕よりしっかりしています。僕が来るのに合わせて業者のアポを取っていたようです。僕の経験を踏まえて付ける場所のアドバイスをします。
玄関とトイレとお風呂に付けることにしました。これで僕が実家に帰っても使えるので助かります。
あと、介護用ベッドもレンタルすることにしました。実家は古いので両親とも床に布団を敷いて寝ていますが、やはりベッドがあるとラクです。介護保険で安価にレンタルすることができます。
実家でお風呂に入ります。手すりはありませんでしたが高めのお風呂椅子でお風呂に入ることが出来ました。今度来る時は手すりがついています。もっと楽になるはずです。
実家の僕の部屋は2階なのですが、今回は1階に寝ることにしました。布団を敷いてもらって布団で寝ます。床からの立ち上がり動作は回復期病院でやった以来ですが、無事布団で寝ることが出来ました。
父のお見舞いも出来犬の無事も確認したので、すぐ帰るよと妻に連絡したところ「ゆっくりしておいで」というのでお言葉に甘えてリハビリがてら実家近辺を電車とバスで散策します。
この時水戸黄門の印籠のように効果を発揮したのが手帳です。ぜんぜん違う自治体発行の手帳ですが、実家近くの美術館や博物館で使えました。これらの美術館や博物館には行ったことがなかったので、ここぞとばかりに行きまくりました。
だいぶ遊んだのでもう良いだろう、リハビリもあるし、と家に戻ることにします。お土産も買っていきます。不要の荷物は置いていけるのが帰省の良いところです。着替えを置いて空いたリュックにお土産を詰めて帰ります。
帰りの新幹線は乗車券だけ既に買っており往復割引を受けておきましたので指定席券だけ買います。
その帰りの新幹線で嬉しいことがありました。東京駅でリュックを背負う時にベルトを左手から通した後に右手を通すのですが、通りかかった外国人旅行者、恐らく欧米の方だと思います、がベルト通しを手伝ってくれました。
ごく自然に手伝ってくれたのでびっくりしましたが、「Have a nice trip」と言うと向こうも「アリガトウ」と言ってくれました。外国人の方はやはりハンディキャップ持ちへの接し方に慣れているのでしょうか??
こんな感じで大冒険?も無事に終了し家に無事に着くことが出来ました。これで結構自信が付き味をしめてしまった僕はさらなる冒険に挑戦することになります。